意識低い系・理系大学院生のマインツ留学体験記

化学専攻の修士2年生です。10月から約2ヶ月半、ドイツのマインツ大に留学。意識が低くても留学生活を満喫できることをお伝えできれば幸いです。

有機化学者という生き物について

修士2年にもなると、あぁ有機化学やってる人たちってこういう人種なのねーってことがだいぶ分かってくるもんです。「有機化学者」って言われるとどうでしょうか。「どうせ理系だから堅苦しいんだろ」「理屈っぽくてウザそう」みたいなイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか?

ところが実際の有機化学者って、こういうステレオタイプ的な理系像とはまるっきり正反対なんです。ということで、修士2年のわたしが見てきた有機化学者という生き物について、つらつらと書いていきたいと思います。

有機化学者はアーティスト気質

唐突ですが、有機化学者って、アーティストみたいなんです。

学者っていいますと、一般的には、険しい顔をしながら難しい本をいっぱい読んだり、頭を抱えながら実験したり、理屈っぽいからめんどくさい……ってイメージだと思います。が、実際のところはそうでもないんです

世の中のアーティストって、みんな「自分の世界観をみんなに伝えたい!」という原動力のもと、一生懸命努力してると思います。例えばギタリストはギター、画家は絵、漫才師は漫才を通じて、他の誰にもできないオリジナルな自分を表現しようと、日々努力を重ねているわけです。

有機化学者は、これらの例に非常に似ています。ほとんど皆さん「原子や分子を組み合わせて、他の誰にもできないオリジナルなモノを創ってやろうじゃないか!」って思ってるわけです*1。例えば天然物全合成でしたら「オレが世界初の達成者だ!」ですし、反応開発でしたら「ワタシが世界初の発見者よ!」ってところですね。だから有機化学者は夜遅くまで実験してても楽しいし、難しい理論を理解することをあんまり苦にしないんですよね。むろん人間なので、辛い時は辛いんですけれども、この「自分だけのオリジナルを形にしたい!」っていう内なる炎が燃えたぎっていると、頑張れちゃうんです。

有機化学者はギャンブラー気質

面白いことに、有機化学者はギャンブラー気質も強いです。

有機化学の面白いところは、膨大な組み合わせがあるってことですね。「有機」というだけあって、有機化学者が扱うパーツは基本的に炭素なんですが、炭素には手が4つあるので、炭素どうしの繋げ方を変えるだけでたくさんの組み合わせが実現できます。他にも、酸素とか窒素とか硫黄とか、炭素以外の原子も含めると、さらにたくさんの組み合わせが考えられるわけです。

ところが話はここで終わりません。恐るべきことに、上記に挙げた基本的な元素を含めて、周期表には100あまりの原子が並んでいます。……もうおわかりですよね。マジでキリがないんです。無論原子の組み合わせ(分子)にはある程度の制約はあるものの、毎日10000個以上CAS登録番号*2が増え続けている様子を見ますと、本当にキリがないなぁと実感させられます。わたしみたいなへっぽこでも偶然ですがCAS未登録の化合物を合成したことがある(世界初だ!と喜びました)ぐらいです。

というわけで、研究生活を送っていると「このターゲット、オレが思いついた合成経路だとすげー簡単に合成できるけど、本当に誰もやってないの?」「あれっ、ワタシが見つけたこの反応は超便利だけど本当に誰もやってないのかしら?」と、大なり小なり、なにかしらに気付くことがたまにあります。そして、これを一度でも味わってしまうと、なかなか抜け出せない……要はギャンブルです。上述の通り、原子と原子の組み合わせにはキリがないので「もしかしたら次こそは……」と期待できちゃうんですよね。

そしてこのギャンブルという要素ですが、研究計画を考える時にも強く現れます。何するにせよ「何をどこまで深く研究するか?」ってことを必ず考えるんですけれども、これがまたギャンブルっぽいんですよね。短くまとめるのか、それとも壮大なストーリーを描ききるのか。そして、どこまで時間とお金をかけるのか。人それぞれ、様々なスタイルがあります。が、共通しているのは「成功するかどうか分からないけれど、上手く行けばとてつもなくカッコイイ論文書けるからお金と時間をつぎ込んでやるぜ!」ということです。モロ、ギャンブルですよね。

この研究スタイルの違いを麻雀に例えるならば、役牌だけでアガるのか、もうちょっと頑張ってリーチ・平和・タンヤオの3翻でアガるのか、それともメンゼンで混一色を揃えるぐらいまで粘るのか、はたまた九蓮宝燈が揃うまで堪えるのか……と、まさに十人十色です。というわけで、わたしは論文を読んでいると「この人は腰が重いメンゼン派だな」「この人はスピード重視で鳴きを多用してるんだな」といったようなアホなことを考えてしまいます。

ちなみにわたしが一番好きな麻雀のアガりかたはリーチ一発ツモ裏3です。ですが、一度もアガったことはありません。

有機化学者は体育会系

ギャンブルって、長い時間集中できる体力があって、かつ負けが込んでもナニクソと踏ん張れるぐらいメンタルが打たれ強くないとやっていけませんよね(カイジを読んでそう思いました)。こう言われるとどうでしょう。有機化学者もいわゆる体育会系が多そうだな、って思いませんか。実際、わたしが見てきた中では、すまし顔でメガネをクイってしながら「この理論通りの結果だね。計画通りさ(フッ」って言ってる系のステレオタイプな賢い理系像よりも、「オラオラやるぜやるぜ!今日はカラム5本だ!お前らついて来いや!」って感じの暑苦しい野球部員みたいな人が多いように思います。

だからなのかは分かりませんが、飲み会も体育会系です。少なくともわたしの所属してるラボの飲み会はそうです。とりあえず盛り上がったら服を脱ぐやつが1人は出てきます。先生も無茶ぶりしまくりでもう滅茶苦茶です。楽しいんですけど、たまに「こいつら本当にマジメに研究してるの?」って心配になるぐらいアホな感じです。うちにはイッキ飲みする人はいませんが、噂によると合成系のラボでは人間エバポレーター*3とかいう宴会芸が定番なんだそう。誰が思いついたんでしょうね。頭をかち割って脳みそがどうなってるか見てみたいです。

まとめ

ちなみにですが、24の若造が何偉そうに言うてんねんって感じなんですけれど、これまでのわたしの研究スタイルは「リーチ一発ツモ裏3で跳満を狙う」みたいな感じでした。案の定、全く結果が出なかったので、さすがにこればっかりやってては修了が危ういと思い、最近はマジメに(マジメだとは言っていない)こつこつ平和とタンヤオくらいを作ろうとしているところです(作るとは言っていない)。頑張ります(頑張るとはいっていない)。

 

ありがとうございました。

*1:もちろん「作る」だけではなくて「作ったモノを評価する」「測定する方法を考える」など、色んな取り組み方があります

*2:化合物を調べやすくするためにつける番号。詳しくはWikipedia先生に

*3:ビール瓶などを回しながら一気飲みする。つまるところエバポレーターのモノマネです。