合成計画で機会損失を避けたという話
なんでしょう。機会損失を重視するドイツ人の考え方ってすごく面白いんですよね。
今日、とある化合物の合成計画について先生とディスカッションしたのですが、そこでも「あぁ、やっぱり"時は金なり"なんだなぁ」と痛感させられました。ということで、有機化学の話題そのものなのですが、書いていきたいと思います。
ことの始まり - アクリレート系モノマーの合成
ドイツに来てから、わたしはよくメタクリレート系やアクリレート系のモノマー*1を重合*2しなければならない――を重合することになりました。
わたしが必要とする目的物の合成方法はすでに報告されているのですが、その方法がなかなかアレなんですよね。一見1ステップ*3の合成で楽そうなのですが、詳しく見てみるとなかなかファンキーな条件である上に収率がとても悪いのです。なんと溶媒にDMFを用いて、160 °Cまで加熱するって書いてありました……。アンタそれ絶対分解してアミンが出て滅茶苦茶になるやろとツッコミたくなるような感じですね。
そこでわたしは母校の先生に教えを請いまして、2ステップ*4だけどおそらく収率が良くて、ファンキーじゃない条件で合成する方法を伝授していただいたのです(そのぐらい自分で考えろとか言わないでください😭いま僕はSciFinderが使えないんです😭)。
先生と話をしてみた
とまあ、既報のレシピがあまりにもアレだったので「ぼく、DMFを160 °Cまで加熱したくないんです」「有機化学のスペシャリストに教えてもらったいいレシピがあるんです。2ステップですけどこっちやってみませんか」と提案してみました。……すると驚くべき反応が帰ってきたのです。
先生「フーム、たしかに面白い考えだね(超訳)」
先生「でもね、2ステップってことは、君は2回も分液漏斗を振って、2回もエバポレーターにかけて、2回も硫マグで乾燥させて、それからさらに2回もカラムをして、さらに2回もエバポレーターにかけて……っていう作業をやることだよね(超訳)」
先生「それにこの試薬はウチにはないから、注文するとさらに時間かかるね(超訳)」
先生「確かに既報はあんまりよろしくないけど、これは1ステップでできるし、原料も全部ウチに揃ってるんだよね(超訳)」
先生「だから既報に従ってやろっか(直訳)」
……
…………
2ステップの合成ならば、意識低いわたしでも「まぁやるか」って思います(本当です)。おいおいこれを面倒くさがってたら何もできないんじゃないかと思う一方で「この説得力は一体何なんだ……」と衝撃を受けました。
合成計画でも「時は金なり」 - とにかく機会損失を嫌うドイツ人
というように、自動化・使い捨て化以外についても、なるべく機会損失を避けよう!という研究哲学があるんですね〜。いやぁ勉強になりました。よくよく考えると合成計画の時点で機会損失は発生し得るんですよね。もしかすると原料合成で「この試薬は買ったら高いから……」と言われているものについても、かかる時間を考えたら、見直したほうがいいことってあるのかもしれないですね。すごい
まとめ
- モノマーを合成しようとした
- 既報がアレだったので、改良しようと提案してみた
- 改良する際に機会損失が生じるからやめようと言われた
- 謎の説得力に「なるほど」と納得した
- これからは合成計画の時点で機会損失が生じないかを考えようと思った
ということでした。ちなみに「お前このブログ書いてて機会損失してないの?」というご指摘はとても的を射ていて胸に刺さるのでやめてください😭
ありがとうございました。